STAY DREAM完結編

 06, 2016 22:33
その後Sとは話をしていない。
俺は力になれないもどかしさを感じていたが、反対した手前バツも悪い・・・
彼の顔からは笑顔が消えて、たまに顔を合わせても目線が泳いでいた。

そうして1、2か月たったある日、彼は久しぶりにすっきりとした顔で話しかけてきた。
「仕事の後、少し時間あるかな」
ここ最近とは違う雰囲気。断る理由は無い。

会社に近い喫茶店へ向かった。ここはよく夜勤明けにみんなで朝ランチを食べるところだ。
いつものソファーに座り込むと、彼はさばさばとした表情で話始めた。
「彼女と切れたんだ」
「えぇー」!
「向こうの親に反対されてね・・・」

Sは彼女の両親と何度か話し合いをしたらしい。自分の考えやこれからの事・・・。
それでも最終的には未来ある若者に他人の子供を育てさせるのは申し訳ないと反対されたらしい。そして彼女も会社を辞める事になった。

Sの純情を思えば素直に「はい」とは言えなかっただろうが、結局はそこを打ち破る事が出来なかったのだと言う。
俺には及びもつかない事が色々あったと考えられ、Sはそこでもがいてきたが結局は何も無かった事で全て清算したのだ。

俺は気の利いた言葉が浮かばず、「大変だったね」、「残念だったね」ぐらいしか言えなかった。
心の中に引っかかりがあって、うまく行きっこないと言う思いと、また元の遊び仲間に戻る事が残酷にも少し嬉しかった。

でも話はそれで終わらなかった。
Sも会社を辞めると言う。
「俺東京に行って一旗揚げようと思うんだ」
「え!何をするんだ」
「ひとまず勉強、デザイナーになりたいんだよ」
「でもお金は!!」
「ちゃんと考えているって、新聞奨学生てのがあるんだよ」
「へぇ・・・」

Sは新聞販売店で働きながら奨学金を貰いデザイナーの学校に通うと言う。
今更会社に居ずらいし、若い時に外の飯を食うのは良い事だと親も賛成だと。

俺は打ち砕かれていた。Sには敵わない、また先を行かれたよ。
不覚にもさっきまたこれで遊べるなんて思った矢先に、彼はもう次のステージへと階段を上がり初めていたのだ。

入社して3年目を迎え、この頃毎日のように悩んでいた。
俺がしたかった仕事はこれなのか?
このまま歳を重ねて何がある?
幸せなのか・・・

高校時代、世の中の「世」の字も解らず決めた進路に、これからも乗っかっていいのだろうか。
Sの話す未来図が自分と重なり、彼が何を言っているのか上の空になっていた。
俺も何かをしたい。このままじゃ井の中の蛙だ!

Sは彼女と吹っ切れた事と、未来への期待で明るい笑顔を取り戻していたが、
反面俺はその後何を話したかよく覚えていないほど動揺していた。

今度は俺が悩む番だった。1100カタナとRZV500を持つ生粋のバイク馬鹿で仲のいい先輩に今の悩みを打ち明けた。
彼は保守・点検をやっている部署に俺を引っ張ってくれ、フリーランサーという肩書をくれた。
今までのように機械的に同じ仕事を繰り返すだけの職場からは逃れて、少し仕事のやりがいは出来たが
業務の依頼が無い時は逆に恐ろしく暇になった・・・。。。
simg012.jpg
グラサンにくわえ煙草がS チェックのセーターがだんご

そうしているうちにSは着々と準備が整い、年度末のある日上京の時を迎えた。
友人数人を誘い、見送りに空港へ向かった。

冒頭の話に戻るが、空港のフロアに集まった仲間みんなでSに「頑張れよ」と声をかけた。
Sはいつもの軽口を叩かなかった。口を真一文字に結び、目で決意を表すよう力を込めるときびすを返した。

エスカレーターでSの背中が上に消えていく。
俺は、彼とよくカラオケで歌った「長渕剛」の歌を口ずさんでいた。


くよくよするなよ

諦めないでJUST LIKE A BOY

その痩せこけた頬のままで

果てしない迷路の中を

人はみんな手さぐりしてでも

STAY・STAY DREAM



「STAY DREAM」完
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COMMENT 5

Tue
2016.06.07
06:18

お・と・た・ん♪ #mQop/nM.

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長渕剛だったんですね♪

「STAY・STAY DREAM」って洒落たタイトルだなぁって思ってたんです^^

なるほろぉぉ~って思っちゃいました!
文才を感じます!!

僕も機会があったら真似よう♪

だんご班長さんの青春の1ページ♪
楽しく読ませてもらいました^^

僕はSさんの気持ちにめっちゃ共感しちゃいます(TT)

僕も叶わぬ恋があったなぁ~・・・遠い目


僕もいつか書いてみたいと、触発されました♪
もう20年も前の事、忘れてしまう前に(死ぬまで忘れんでしょうが)残しておきたい

その時のタイトルをなんにしようかな♪

Edit | Reply | 
Tue
2016.06.07
06:22

お・と・た・ん♪ #mQop/nM.

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Sの純情を思えば素直に「はい」とは言えなかっただろうが、結局はそこを打ち破る事が出来なかったのだと言う。

ここです!若さゆえ!
Sさんの心情わかるなはぁ~v-390

Edit | Reply | 
Tue
2016.06.07
23:28

だんご班長 #-

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長文閲覧有難う御座います^^

お・と・た・ん♪ さん

長々と引っ張りましたがやっと完結しましたー

Sは傍目には要領のいい出来る感じの男でした。
それでも私と出会ってからの2年間は、
彼にとっても試練の時だったと思います。

彼はその後デザイナー学校を卒業しましたが、
全く畑違いの介護の仕事について今も東京にいます。

私が東京に行った時はお世話になったし、
しばらくはやり取りも続けていましたが
最近ではそれも途絶えました。(私がウロウロし過ぎ^^;)

彼と過ごした期間は短かったけど
幼馴染の友人よりはたった2年間の付き合いだったSの方が
私には気が合いました。

地元で親元でぬくぬくと過ごした友人より
あえて親元を離れ困難に立ち向かったS達の方が
同じ棘の道を進んだ戦友みたいなもので心地よかったのです^^

そして

馬鹿だったね
やっちまったねー
穴があったら入りたいわ!

と自虐ネタで笑える事が何よりも楽しいのです^^

いつか彼とまた会える時があったら、失敗談で盛り上がって
カラオケで歌いまくりたいですwww

お・と・た・んさんも是非書いて下さい!
お待ちしていまーす♪

Edit | Reply | 
Wed
2016.06.08
05:14

お・と・た・ん♪ #mQop/nM.

URL

近いうちに♪

馬鹿だったね
やっちまったねー
穴があったら入りたいわ! >

まさにそんな感じです
思い出すだけで赤面ものって事柄が多すぎて・・・^^:

「くっ」とか、「あwwww」とか声が出るくらい恥ずいおもいで満載!

僕も
地元に帰ってきた僕と、残った組で、しばらく連絡しあってたけど時間経つとやっぱ疎遠になりました

たまに、夢をみます、夢の中では皆、あの頃のまま・・・そして自分も若いんすよ♪

Edit | Reply | 
Wed
2016.06.08
23:07

だんご班長 #-

URL

私も続編を思案中^^

お・と・た・ん♪ さん

お・と・た・んさんもそうなんですね!
私も約10年放浪して地元熊本に帰りました。

当時幼馴染達が集まって、「お帰り会」をしてくれ
しばらくは連絡を取り合っていたのですが、
その後疎遠になりました。

何かが違うのです。彼らは楽な方、得な方を恥も感じず自然に選びます。
人に何かを頼むのも上手です。
私はそれが出来なくて、いつも泥を食っていました。
そしていつも貧乏でしたね><

それでも自由が欲しくて、自己を確率したくて外に飛び出したのです。
それが正か誤りかいまだに答えは出ません。
てか今更戻れませんが^^

とにもかくにも不器用ってところですね(^^;

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